業種別事例研究 続 ネイルサロン編

業種別事例研究

業種別事例研究 続 ネイルサロン編

駅周辺のビルにたくさん見かけるネイルサロン。

美容サロンと併設されているところもあるが、それほどの設備を必要としないため、専門店を駅前の雑居ビルには多く見かける。競争が激しい。

お客を獲得するため、宣伝は欠かせない。常にキャンペーンに追われている。

多くの店が、SNSやインスタの発信をしている。

中でも、リクルートなどが展開する予約システムを導入している店がほとんどだ。

業種の特徴は、大部分が現金売上であり、非違事例は、売上脱漏または売上と仕入れ除外が多い。調査初動時に現場資料をどれだけおさえるかが調査のキモになる。

謎解き

お約束の謎解き編です。

簿記の勉強したことありますか?

現金売上の仕訳

2020/1/31 現金1,000,000 現金売上 1,000,000

と仕訳します。

これを、30万抜いてしまうと

2020/1/31 現金700,000 現金売上 700,000

こうなってしまいます。

これが、12ヶ月繰り返されます。

仕訳されなかった仕訳の合計は、

一年合計 現金 3,600,000 現金売上 3,600,000

生活費の仕訳は

個人事業主の場合

自分の生活費の仕訳までは、行いません。

しかし、生活用品や食糧などを買わなければ、生活できません。

と言うことで

仕事と個人生活のお財布を分けます。

これを事業主勘定に仕訳をします。

2020/1/31 事業主(店主貸)300,000 現金 300,000

このほかにも

事業に使っている通帳から生活に支払いをされたものは、必要経費に仕訳をしません。

2020/1/31 事業主(店主貸)50,000 現金 50,000

事業主(店主)勘定とは

事業主勘定は、事業の中で資金が動いた時に、必要経費にならなかったものが集められきます。

したがって

何億の収入があろうとも、個人で使えるお金はいくらだったのかを見るには、事業主勘定を見れば、一目瞭然なのです。

事業主勘定を見て、

個人に出ていったお金がないあるいは少額だったら、

この人は、何を原資にして、生活をしていたんだろうとなります。

他に職業を有していて、お給料があれば、そちらでまかなったとも言えます。

莫大な預金やたまりがあって、それで、生活していたと言うのもあるかもしれません。

事業以外に収入の手段がなくて借金生活していないのであれば

事業から生活のお金を得ていたことになります。

生活費の仕訳がなかった

簡単に言うと

一年合計 現金 3,600,000 現金売上 3,600,000

一年合計 店主貸 3,600,000 現金 3,600,000

この仕訳がしていないのです。

この結果

損益計算書では、売上が360万円減少し、所得金額である利益が360万少なくなります。

貸借対照表では、店主貸に360万がないのです。

この事案では、さらに

簿外の預金があり、預金の増加と自宅購入がありました。

(2000万余りのタンス預金は、B/S調査においてはブラックボックスです。)

事業主借(店主借)とは

店主借の仕訳は

よくあるのは、税理士さんが、使います。

僕も使います。

それは、経営者が現金で払った領収証を持ってくるからです。

現金出納帳を付けてくれる経営者であれば、いいのですが、丸投げされると、どのお財布から出たものか分からないので、

2020/1/31 接待交際費 50,000 店主借 50,000

と仕訳を起こします。

こうして、多くの現金払いの経費は、店主借を相手科目にして記帳されます。

事業の現金が足りなくなると

2020/6/30 現金 1,000,000 店主借 1,000,000

とか、バレバレの仕訳が起きたりします。

これは、現金払いの経費を現金勘定で仕訳を起こしていくと生じます。

帳簿上の現金が無くなってしまうのです。

実際には、現金が無くなっていないので、どっからかお金を持ってきたことになります。

こうして、

現金売上を抜きすぎたりすると、現金勘定がショートして、店主借を起こさざるをえません。

どっから、この不足のお金が来たのか?

これでバレることもあります。

青色申告

これは、調査対象者が、青色申告者で、複式簿記により帳簿を記入(入力)して、総勘定元帳、損益計算書と貸借対照表を作成していたから、一発でわかったことなのです。

白色申告でしたら、損益計算書だけになりますから、所得金額が少ないだけです。

貸借対照表があるとないでは、大きな違いです。

復習

事業以外にお金が入ってくる方法があるかを確認してます。

入ってこない→自分の店のお金で生活し、貯金し、納税している

進行年分の記帳額は、

内観調査の記録があったことと

レジペーパーと一致しているから、とりあえず、正しいとしました。

しかし、入力処理していないため、公表帳簿はないので、改竄は行われていません。

申告ずみは、

原始記録のレジペーパーと売上ノートがありません。

改竄後の総勘定元帳があるだけです。

それぞれを書き出したことによって、概ね公表に記載された現金売上が進行年分の売上より少いことを確認してます。

3年分の総勘定元帳の現金、銀行預金、売掛金、事業主勘定を確認して、事業の中で資金の流れがどのようになっているかを見ます。

勝負は早いとなる

上記を踏まえて、勝負は早いとなります。

臨場調査

概況聴取後、臨場調査実施。

レジ周りの確認を説得し、レジ周りの現況調査実施。

レジ下の棚に予約帳と日々の売上を記帳したノート確認(公表)。

ゴミ箱は空っぽ。

青色申告会へは、進行年分の伝票を持って行ってないため、記帳された公表帳票はなかった。

青色申告会へは、売上を記載したノートから日々の現金売上金額とカード売上金額を書き出してメモを作成し、銀行通帳と経費の領収証を持って行って、帳簿を作ってもらい青色申告してきた。

昨年までの日々の売上を記録したノートやレジペーパーは破棄。

生活状況の確認

シングルマザーで30代の女性です。パトロンやパパがいてもおかしくないし、子供の父からの養育費があるかもしれません。

ここは、しっかりと確認しておかないと後から言われてグダグダになります。

20代半ばで開業し、この繁華街でやってきたのですから、やり手であることは間違いありません。10代からこの街に出入りして遊んできたことや子供の父とは連絡がないこと、パパやパトロンなどお金の面倒をみてくれる者がいないことを確認。

購入した自宅は、実の父母が近くにおり、小学生の子供の面倒をみている。お金の援助関係はなし。

開業資金などを自力で溜めたと言う。

お金の流れを確認

店の売上は、現金とカード売上。レジパーパーを集計して毎日現金売上とカード売上を記帳。

現金は釣り銭を残し、毎日持って帰る。

家賃や公共料金は銀行払い。材料費は、現金払い。

自宅にたまったお金は、経費の支払いや従業員の給料支払いや生活費に当てたり、銀行に預け入れる。

帳簿の確認

3年分の総勘定元帳の現金、銀行預金、売掛金、事業主勘定を確認。

帳簿上から生活費に出ているお金を確認。

3年分の売上勘定のうち現金売上の月々の売上を書き出す。

進行年分の月々の売上を書き出す。

内観調査の領収証控やレジ記録を確認。

勝負は早い

調査対象者の女性に、もう一度、パトロンやパパなど資金援助のことを確かめる。

じっと、目をみて、「現金売上正しく書いてないね。」

いきなりのことで彼女は目をパチクリ。激しく動揺。

税理士が、「いきなりそれはないでしょう」と。

私は、言います。

「先生が作成した帳簿じゃないですから、これを見てください。」

法人が強い税理士でしたが、事業主勘定を見させて、得心しました。

現金売上を正しく書きませんでした。

いくら抜いたのか?

毎月30万くらい

「質問応答記録」作成

午後からは、従業員も来るので、収集した帳票を預かり、本人・税理士を伴い署へ場所を移します。

署の面接ブースでは、泣く泣く。

そんなにたくさん  月30万なんて抜いてない

フロアーに彼女の声が響きます。

自宅の調査を頑強に拒みます。

現金売上を正しく書かずに申告してきたことだけを確認し、質問応答記録書を作成。

また、調査年分を3年から7年間とすること。

銀行調査等反面調査を実施すること。

払うから今日終わって!

やだあ!そんな前からしてないから!

泣いて叫びますが、張ったり金額では終われません。

重要事案審議会に事案を上げて決裁をもらうにはそれなりの根拠に基づいた調査額が必要です。

調査結果

翌朝、自宅の現況調査。

タンス預金が2000万あまり。郵便局と地元の銀行に簿外口座あり。

銀行調査(各金融機関に調査に入り全国名寄せ検索)により預金を把握。

残高の増加額から毎年の申告漏れ金額を算定。

残高の増加額から所得税と消費税について、調査年分は5年。重加算税5年賦課。

店主のことば

開業から数年は、毎日売上があることにが嬉しくて必死だった。一生懸命だった。勉強なんて嫌いだし、分からないし、税理士に頼むのは会社だと思っていた。白色だと全部自分でやることになりできないので、青色申告会に入った。

毎日の売上を書いた紙や領収証を持っていくと帳簿にしてくれたり、税務署に出す書類全部やってくれることを知り、お願いしてきた。

しばらくして、現金売上を落として申告することを思いついた。不安でいっぱいだったが、一年経ち申告も無事に出来て大丈夫なんだと思った。青色申告会の人も何にも言わなかった。

お店の経営も常連客がつき、安定してきた。なんの不安も感じなくって来て、悪いことをしている意識もなくなっていた。家も買えたし、お金が溜まることがほんとに嬉しかった。

あまりの追徴金額に驚いた。ちゃんと申告したら、えらい金額になることが分かったけど、これでは、この10年やってきた全部がなくなった。

まとめ

自己判断での売上脱漏がバレた時の税負担は、よほど溜め込んだお金があれば払えますが、5年分の重加算税賦課の税金は大変な負担になります。税負担に対しては、適切な専門家の助言を求めていただくのが一番です。

https://rescuetaxdesk.com/130/

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